ファクタリングで任意整理が発生。その時すべき対策を徹底解説。
目次
企業の倒産は倒産した会社の経営者、従業員にとって最悪の事態ですが、取引先にも多大な影響を与えます。ファクタリングを行った際にも、その当事者の誰かが倒産すればファクタリング取引に重大な影響が生じます。企業が倒産した際に、整理方法の一つである任意整理を選択した場合、ファクタリングにどのような影響が生じるのかを見ていきましょう。
任意整理と法的整理
最初に任意整理とは何かを見ていきます。
任意整理とは何か
企業の任意整理とは、企業が債務超過や資金繰りの悪化に直面した際、債権者と直接交渉して支払・返済条件を見直し、経営を立て直すための手続きです。裁判所を介さずに当事者同士が話し合って行う手続きです。そのため、迅速かつ柔軟に対応できる点が特徴です。
任意整理は、破産などの法的整理に至る前に、企業が自主的に債務を整理し支払える状態にすることで、事業の継続を図る方法であると言えます。
法的整理とは何か
任意整理と比較されるものに法的整理があります。法的整理についても簡単に確認しておきましょう。
企業の法的整理とは、債務超過や資金繰りの悪化により、企業が経営困難に陥った際に、裁判所の関与のもとで行う債務整理手続きです。「民事再生」「会社更生」「破産」などの方法があります。民事再生や会社更生では、事業を継続しながら債務の減額や返済計画を再編成し、再建を目指します。一方、破産は企業の全資産を清算し、債権者に分配することで、債務を整理する手続きです。
法的整理は、裁判所が関与するため、手続きに法的拘束力があり、債権者間での公平な処理が確保される一方、信用情報に大きな影響を与えます。
任意整理と法的整理の違い
任意整理と法的整理の違いについてまとめてみます。
1. 手続きの法的拘束力
法的整理は裁判所が関与するため、手続きに法的拘束力があります。破産や民事再生などの法的手続きは、裁判所が債権者と債務者の間に入って調整を行うため、すべての関係者に強制力があります。
一方、任意整理は裁判所を介さず、債権者と債務者が直接交渉を行うため、双方の合意が必要です。そのため、法的拘束力はなく、債権がどうなるのかは債権者と債務者とのそれぞれの合意により決まります。
2. 費用と時間
法的整理は、裁判所が関与するため、弁護士費用や裁判費用がかかり、手続きに時間もかかります。破産や民事再生などでは、全体の手続きが完了するまで数ヶ月から数年を要することがあります。
一方、任意整理は、裁判所を介さないため、費用が比較的少なく、交渉が早く進むことが多いです。上手くいけば、数ヶ月以内に債権者との合意に達することもありえます。
3. 整理の対象となる債務の範囲
法的整理では、全ての債務が対象になります。たとえば、破産手続きでは、すべての債務が免除される可能性がありますが、その代わりに財産が処分されることがあります。民事再生の場合は、債務の一部が整理されることがあります。言い換えると、法的整理を行う企業に対する債権者はすべからく影響を受けるということです。
一方、任意整理では、債務者が希望する債務だけを対象に交渉することができます。言い換えると債務者が選んだ債権者とのみ影響を受けます。そのため、債務者から見れば、特定の債務(債権者)を選んで再編や減額を交渉することができます。
4. 信用情報への影響
法的整理は、破産や民事再生など、裁判所が関与する手続きが行われるため、信用情報機関に登録され、長期間にわたり信用情報に悪影響を及ぼします。これにより、今後の融資やクレジットカードの利用が制限される可能性があります。
一方、任意整理も信用情報に登録されますが、法的整理に比べて影響は比較的小さく、期間も短い場合があります。
5. 財産の処分
法的整理、特に破産手続きでは、債務者の財産が基本的に処分され、債権者に分配されます。これにより、債務が免除される代わりに、財産を失うことが一般的です。
一方、任意整理では、財産の処分は通常行われません。債務者は現在の財産を保持しながら、債権者との間で返済条件の変更や債務の減額を交渉することができます。
任意整理の種類
企業の任意整理には以下の5つの類型があります。いずれの類型も債権者が合意しなければ実現しないという点に注意が必要です。
1. 返済条件の緩和
任意整理では、企業が債権者と交渉し、元本返済の期間延長や、毎月の返済額を減額する形で返済条件を緩和することがあります。これにより、企業は資金繰りを改善することができ、経営の立て直しに取り組むことができます。返済条件を柔軟に変更することで、企業は差し迫った返済や支払いを行いつつ、事業継続を目指します。
2. 利息や遅延損害金の免除
任意整理では、企業が債権者に対して、既存の債務の利息や遅延損害金の免除を求めるケースがあります。これにより、債務の元本を中心に返済することができ、債務の総額を減らすことができます。利息負担がなくなり資金繰りの負担が大幅に軽減されれば、今後の返済を行う目処を付けることができるので、事業の立て直しがやりやすくなります。
3. 債務の一部免除
任意整理では、債権者が合意すれば、企業の債務の一部を免除してもらうことができます。企業が借金を全額返済できない場合に、債権者が一部の借金を免除することで、企業は残りの債務を無理なく返済できるようになります。これにより、企業は借入の負担を大幅に減らし、事業再建に向けた余裕を確保できます。
4. 複数の債権者との集団交渉
任意整理では、企業が複数の債権者と同時に交渉し、共通の返済条件を合意することがあります。この場合、すべての債権者が同じ条件で債務再編を受け入れることで、債権者間の公平性が確保されるとともに、個々の債権者と交渉するよりもまとめて交渉できるため効率的に任意整理を行うことができます。企業は複数の債権者に同じ条件で支払い、または返済していくことになりますので、分かりやすく支払いや返済を進めることができ、経営を安定させることができます。
5. 事業再編との連動
任意整理と同時に事業再編を進めるケースもあります。企業は不採算部門の閉鎖や資産売却などの事業再編を行い、その結果得られた資金を元に債権者と債務の減額や支払・返済条件について交渉します。事業再編によって生まれた余力または資金を活用し、より現実的な返済計画を立てることが可能となり、企業の持続可能性を高めることができます。
当事者の任意整理がファクタリングに与える影響
ファクタリングの当事者が任意整理を行った場合、他の当事者に以下のような影響が生じます。
1. ファクタリング会社が任意整理を行った場合
ファクタリング会社が任意整理を行うと、ファクタリング利用企業は、ファクタリングの支払いをファクタリング会社に対して行っていいのかが不透明になります。任意整理の中で、ファクタリング会社がファクタリングの回収をファクタリング会社の債権者に譲渡している可能性があるためです。これは、売掛金が譲渡されている場合の売掛先企業にとっても同じです。売掛先企業もファクタリング会社に本当に支払っていいのか、が不透明になります。
また、ファクタリング利用企業は、今後そのファクタリング会社との間でファクタリングができなくなる可能性が高まります。任意整理を行うくらいなので資金が尽きており、新たにファクタリングを行う余力がないケースが多いからです。そのためファクタリング利用企業はファクタリングを行うために、新しくファクタリングを探す必要ができます。
2. ファクタリング利用企業が任意整理を行った場合
ファクタリング利用企業が任意整理を行うと、ファクタリング会社は回収リスクが高まります。任意整理の過程で売掛債権が減額されるなど、全額回収が困難になる場合がありえるからです。この場合、ファクタリング利用企業の保証をとっていることが意味をなさなくなります。任意整理を行う会社には保証に応じてもらえる可能性は低いからです。
また、売掛先企業にとっても、ファクタリング会社から債権譲渡の通知を受けたり、その結果支払先の変更が生じる可能性があります。
3. 売掛先企業が任意整理を行った場合
売掛先企業が任意整理を行った場合、譲渡された売掛債権の回収が困難になるリスクに直面します。この結果、ファクタリング利用企業、ファクタリング会社のどちらかが、ファクタリング対象債権が支払われない損害を負担しなくてはなりません。
ファクタリング利用企業が売掛金を保証しているなどから、売掛金の損害を負担する場合には、キャッシュフローに大きな影響が出る可能性があります。特にファクタリングに依存している企業にとっては深刻な資金繰り問題が発生することがあります。
ファクタリングで売掛先が任意整理を行った場合にとるべき対策
ファクタリングの当事者が任意整理を行うとこのように他の当事者には重大な影響が発生します。その中でも特に売掛先が任意整理を行った場合、ファクタリング利用企業が被る影響が大きいです。そこで売掛先が任意整理を行った場合にファクタリング利用企業が行うべき対応を確認しておきましょう。
1. 売掛金の回収状況の確認と交渉
売掛先が任意整理を開始した場合、ファクタリング利用企業は、まず売掛金の状況を確認する必要があります。具体的には自社の売掛金が任意整理の対象となっているのかを確認し、任意整理が進行する中で、その売掛金がどの程度回収可能かを見極めることが重要になってきます。
自社の売掛債権が任意整理の対象となっている場合には、債権者として任意整理にどのように対処するかを検討することになります。ファクタリングを行っている売掛金であればファクタリング会社が回収方法の検討を手伝ってくれるケースもあります。
2. ファクタリング会社への連絡と協議
売掛先が任意整理を行うと、売掛金の回収が困難になる可能性があります。ファクタリング利用企業は、速やかにファクタリング会社にその状況を報告し、今後の対応について協議する必要があります。ファクタリング契約には、売掛先の信用リスクに関する条項が含まれている場合が多く、契約違反とならないように対応することを最優先にすべきです。その後、ファクタリング会社と協力して、どのようにリスクを軽減するか、回収方法を再検討することが重要です。
3. 代替取引先の検討と取引関係の再構築
売掛先が任意整理を行ったことで、取引先としての信頼性が低下する可能性があります。信頼できないという判断に至れば、ファクタリング利用企業は、その売掛先との取引をやめ、他の取引先を探す必要があります。また、既存の取引先との関係が悪化する前に、取引条件を見直し(支払期間の短縮や支払金額の増加等が考えられます)、その取引条件を元に新たな契約の締結を行うことも検討すべきでしょう。
4. キャッシュフローの再評価と資金調達計画の見直し
売掛先の任意整理によって、その売掛先からの売掛金の回収が不確実になります。今後取引自体が縮小、停止する可能性もありますし、取引は継続していてもいつ法的整理を始めるのか不安がぬぐえないこともあります。
その売掛先への売掛金をこれまでファクタリングしてきていたファクタリング利用企業は、自社の資金繰りを見直すことが必要になります。今後はその売掛債権はファクタリングには使えない可能性があるためです。他の売掛金を対象とした追加のファクタリング契約や他の資金調達手段を検討することで、資金繰りの悪化を防ぐことが重要です。こうした対応により、予期せぬ資金不足を回避し、経営の安定を維持することができます。
任意整理しそうな取引の債権はファクタリングしないことが重要
取引先が任意整理を行う兆候は意外とはっきりしているにも関わらず、見過ごされることが多くあります。最悪の事態が起きないでほしいという願望から、現実を直視するのが難しくなるからです。
しかし、ファクタリングを行った売掛債権が任意整理の対象となると、ファクタリング利用企業には多大な負担が発生します。急激に資金繰りが苦しくなり、最悪のケースでは連鎖して会社を整理することだって起きかねません。
任意整理が懸念される売掛債権はファクタリングを行わないことを普段から徹底しておく必要があるでしょう。