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ファクタリングにおける売掛債権の二重譲渡は犯罪行為!?どのようなペナルティが課されるのかを解説

資金繰りに切羽詰まっているなら、「1つの売掛債権を複数のファクタリング事業者に譲渡すればたくさんの資金が手に入る」と考えるかもしれません。

しかし、売掛債権の二重譲渡は犯罪行為です。

そして、ファクタリングにおける二重譲渡はどこかの段階で必ず発覚し、その後相応の処罰を受けることになります。

この記事ではファクタリングにおける二重譲渡とはどのような行為なのかを説明し、二重譲渡がファクタリング事業者に発覚するタイミング、二重譲渡に対する処罰、二重譲渡に対するファクタリング事業者の対応策を紹介します。

ファクタリングにおける二重譲渡とは?

ファクタリングにおける二重譲渡とは、すでにファクタリング事業者に買取してもらった売掛債権を
別のファクタリング事業者に買取してもらうことです。

たとえば、売掛先A社に対する売掛金200万円の売掛債権をファクタリング事業者B社に買取してもらい、そこから手数料10%を引いた180万円を受け取ります。

それから、同じ売掛債権をファクタリング事業者C社に買取してもらいC社から手数料5%を引いた190万円を受け取りました。

これが、ファクタリングにおける二重譲渡です。

1つの売掛債権を1社だけに買取してもらうなら180万円ですが、それを2社以上に買取してもらえばさらにお金が入ってきます。

発覚しなければ問題にならないと感じる方もいらっしゃいますが、ファクタリングにおける二重譲渡は必ず発覚するものです。

二重譲渡が計画できる理由

ファクタリングで二重譲渡が計画できるには掛取引はあくまで口約束だからです。売掛金はサービスや商品を納品した際に発生する代金を受け取る権利ですが、手形のように何かの書類になっているわけではありません。

売掛金という売掛債権は存在していても形に残らないものなので、故意であれ過失であれ1つの売掛債権を複数のファクタリング事業者へ譲渡するということができるわけです。

二重譲渡は2社間方式で起こる

ファクタリングには3社間方式と2社間方式があります。売掛債権の二重譲渡が起こるのは2社間方式です。

3社間方式では、利用企業が売掛先に債権譲渡の通知をし、売掛先は売掛金の入金先をファクタリング事業者に変更することや、売掛金の情報提供、債権譲渡について承諾する必要があります。

3社間方式は契約や取引に必ず売掛先が関係するので、二重譲渡は計画できません。

2社間方式において、売掛先は利用企業とファクタリング事業者の間で債権譲渡契約が交わされていることを知らないので、この点を利用して悪意のある企業は二重譲渡を計画することが可能です。

二重譲渡が発覚するタイミング

ファクタリングにおける二重譲渡は以下のタイミングで必ず発覚します。

● 審査
● 債権譲渡登記
● 回収した売掛金を渡すとき

それぞれのタイミングでなぜ二重譲渡が発覚するのかを解説します。

審査

ファクタリングの審査のタイミングで二重譲渡は見つかります。ファクタリング事業者は審査の際に法務局で登記事項概要証明書を交付請求し、対象となる売掛債権の譲受人が誰であるかを確認するからです。

登記事項概要証明書は、債権譲渡登記ファイルに記録されている登記事項の概要を記載した証明書で、以下の事項が記載されています。

● 譲渡人(または質権設定者)の氏名及び住所(法人の場合は、商号及び本店)
● 譲受人(または質権者)の氏名及び住所(法人の場合は、商号及び本店)
● 譲渡人または譲受人(質権設定者または質権者)の本店(主たる事務所が外国にある場合は日本における営業所)
● 登記原因及びその日付
● 登記の存続期間
● 登録番号
● 登記の年月日
● 登記時刻
● 既発生債権を譲渡・質権設定する場合に限り譲渡にかかる債権または質権の目的とされた債権総額

このように登記事項証明書から債権の譲受人について商号や住所が確認できるので、それがすでに別のファクタリング事業者の商号になっていれば、譲渡済みの売掛債権であることがわかります。

しかし、迅速な資金提供を実現させるために、ファクタリング事業者は売掛債権の買取をまずおこない、後で細かな点は確認するケースがほとんどです。

したがって、審査のタイミングで二重譲渡が見つからないことがあります。

債権譲渡登記

ファクタリング事業者の中には契約に際し債権譲渡登記を求めるところがあります。この手続きも二重譲渡が発覚するタイミングです。

債権譲渡登記とは、名前の通り債権が譲渡されたことを登記する手続きで、不動産登記や商業登記と同じように、法務局で手続きをすれば、その債権が誰の所有であるかを証明することができます。

債権譲渡手続きを始めた時に、対象となる売掛債権がすでに他のファクタリング事業者によって登記されていれば、売掛債権はすでにそのファクタリング事業者に譲渡されているということです。

したがって、債権譲渡登記も二重譲渡が発覚するタイミングになります。

ファクタリング事業者によっては債権譲渡登記を求めないケースがあります。しかし、最終的に次のタイミングで二重譲渡は発覚するので、最後まで隠し通すことはできません。

回収した売掛金を渡すとき

売掛先から回収した売掛金をファクタリング事業者に渡すときも、二重譲渡が発覚するタイミングです。

3社間方式では、売掛金は売掛先がファクタリング事業者に支払います。

2社間方式は、利用企業がこれまで通り売掛先から売掛金を回収し、それをファクタリング事業者に渡します。

額面200万円の売掛債権1つを2つのファクタリング事業者に譲渡した場合、それぞれの事業者に200万円、合計400万円を渡すわけです。

もともと資金繰りに困っている企業が二重譲渡をすれば、ファクタリング事業者に売掛金を渡すタイミングで入金遅延が起こり、ファクタリング事業者は利用企業に支払いの催促や督促をするようになるでしょう。

そのタイミングで二重譲渡は必ず発覚し、利用企業は相応のペナルティを課されます。

二重譲渡に対するペナルティ

売掛債権の二重譲渡をおこなった企業には以下の罪が適用され、それに応じた処罰が下されます。

● 詐欺罪
● 横領罪

詐欺罪

すでに譲渡した債権をまだ譲渡が済んでいないように見せかけてファクタリング事業者に買い取らせ代金を受け取る行為は、詐欺罪が適用されます。

詐欺罪は、刑法第246条で「人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する」と刑罰が定めらており、罰金刑の規定はありません。

有罪判決が下されれば懲役一択となり、最大10年にわたって刑務所に収監されてしまう可能性がある重大な犯罪です。

横領罪

ファクタリングは債権譲渡契約なので、契約をした時点で売掛金の所有権はファクタリング事業者になります。

売掛金の回収委託契約が交わされるので、利用企業は売掛金を自社で持つことになりますが、あくまでそれは他人のものを預かっているに過ぎません。

したがって、二重譲渡は自社に所有権がないもの、他人の預かりものを自分のものであるかのように売却する行為です。

こうした行為は横領罪に該当します。単純横領罪は「預かっていた他人のものを自分のものにする行為」で、「業務として預かっていた他人のものを自分のものにする行為」は業務上横領です。

ちなみに刑事裁判で有罪となれば、単純横領罪は、罰金刑なしの5年以下の懲役、業務上横領は罰金刑なしの10年以下の懲役になります。

損害賠償請求される

二重譲渡をすれば、刑事罰が下されるだけでなくファクタリング事業者から民事訴訟を起こされて損害賠償請求される可能性があります。

損害賠償の請求額は、未回収となった売掛金の額だけでなく、弁護士費用やファクタリング事業者に与えた実務上の損害なども加算され高額になるでしょう。

二重譲渡が発覚すれば刑事裁判だけでなく、民事裁判にかけられます。刑事裁判で有罪となれば前科がつき、民事裁判で高額の損害賠償金を支払う命令が出れば事業継続は不可能です。

二重譲渡は「魔が差した」「資金繰りに困っていた」では済まない問題を引き起こすので絶対にしないでください。

二重譲渡に対するファクタリング事業者の対応策

ファクタリング事業者も二重譲渡の被害者になり売掛金回収不能となる事態は避けたいです。そのために取る対応策が債権譲渡登記です。

債権譲渡の契約をした際に、債権譲渡登記をしておけば、利用企業が別のファクタリング事業者に同じ売掛債権を売却しても、その売掛債権の譲受人は自社であると主張できます。

債権譲渡登記をしないなら、二重譲渡がおこなわれた場合、それぞれのファクタリング事業者が買取した売掛債権の所有権を主張することになります。

このように、債権譲渡登記をしておけば、ファクタリング事業者は二重譲渡とそれに伴うトラブルを回避することが可能です。

ファクタリングにおける二重譲渡についてのまとめ

1つの売掛債権を複数のファクタリング事業者に売却する二重譲渡は犯罪行為です。

審査・債権譲渡登記・回収した売掛金を引き渡すといったタイミングで二重譲渡は発覚します。

刑事訴訟で有罪になり民事訴訟で高額な損害賠償を請求されれば、行為と釣り合わない大きな代償を払うことになるでしょう。

ファクタリングは犯罪に利用するのではなく、ルールに沿って使う資金調達手段です。ルールに沿って利用すれば安全かつ効果的に資金繰りの悩みを解決できるでしょう。