助成金・補助金情報

【業務改善助成金】制度概要と受給までの流れ、活用事例について解説

業務改善助成金とは

業務改善助成金は、生産性向上を目的とする設備投資等を行うとともに、会社内の最低賃金を一定額以上引上げた場合に、設備投資等にかかった費用の一部を助成する制度です。

助成対象事業者

業務改善助成金における助成対象事業者は以下の全てを満たす事業者となります。

・中小企業・小規模事業者
・事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差額が50円以内であること
・解雇・賃金引下げなどの不交付事由がないこと

ここでいう中小企業・小規模事業者は以下の要件を満たす事業者です。
(A=資本金または出資額、B常時使用する労働者)

・小売業(小売店・飲食店など):A 5,000万円以下、B 50人以下
・サービス業(宿泊業・医療など):A 5,000万円以下、B 100人以下
・卸売業:A 1億円以下、B 100人以下
・その他業種(建設業・製造業など):A 3億円以下、B 300人以下

2つの目の要件である「事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差額が50円以内であること」に関して説明します。
地域別最低賃金が1,000円の地域の場合、事業場内最低賃金が1,050円となっている事業場までが業務改善助成金の申請を行うことが可能です。
一方、1,000円の地域において、事業場内最低賃金が1,050円を超えている(例:1,055円など)事業場は業務改善助成金の対象外となります。
また、業務改善助成金は会社単位で申請するのではなく、工場や事務所など、それぞれの事業場ごとに申請を行う必要があります。

特例事業者

上記で解説した「助成対象事業者」の要件を満たしたうえで、以下に当てはまる場合は、助成上限額・助成率・助成対象経費の特例的な拡大が受けられます。

・申請事業場の事業場規模一定未満である場合
・申請事業場の事業場内最低賃金額が950円未満の場合(賃金要件)
・事業主の事業状況(利益率)が一定の要件を満たす場合(物価高騰等要件)
・「生産要件」を満たした場合

助成上限額

業務改善助成金における助成上限額は、事業内最低賃金の引上げ額と実際に引き上げる労働者数、事業場の規模によって以下のように変動します。

30円コース

30円コースは、事業場内最低賃金の引上げ額が30円以上45円未満の事業場が対象です。
30円コースにおける助成上限額は以下の通りです。
(A=引上げる労働者数、B=事業場規模30人以上、C=事業場規模30人未満)

・A:1人   B:30万円 C:60万円
・A:2~3人 B:50万円 C:90万円
・A:4~6人 B:70万円 C:100万円
・A:7人以上 B:100万円 C:120万円
・A:10人以上B:120万円C:130万円

45円コース

45円コースは、事業場内最低賃金の引上げ額が45円以上60円未満の事業場が対象です。
45円コースにおける助成上限額は以下の通りです。
(A=引上げる労働者数、B=事業場規模30人以上、C=事業場規模30人未満)

・A:1人   B:45万円  C:80万円
・A:2~3人 B:70万円  C:110万円
・A:4~6人 B:100万円 C:140万円
・A:7人以上 B:150万円 C:160万円
・A:10人以上B:180万円 C:180万円

60円コース

60円コースは、事業場内最低賃金の引上げ額が60円以上90円未満の事業場が対象です。
60円コースにおける助成上限額は以下の通りです。
(A=引上げる労働者数、B=事業場規模30人以上、C=事業場規模30人未満)

・A:1人   B:60万円  C:110万円
・A:2~3人 B:90万円  C:160万円
・A:4~6人 B:150万円 C:190万円
・A:7人以上 B:230万円 C:230万円
・A:10人以上B:300万円 C:300万円

90円コース

90円コースは、事業場内最低賃金の引上げ額が90円以上の事業場が対象です。
90円コースにおける助成上限額は以下の通りです。

(A=引上げる労働者数、B=事業場規模30人以上、C=事業場規模30人未満)

A:1人   B:90万円  C:170万円
A:2~3人 B:150万円 C:240万円
A:4~6人 B:270万円 C:290万円
A:7人以上 B:450万円 C:450万円
A:10人以上B:600万円 C:600万円

最低賃金引上げのルール

上記のように業務改善助成金では、事業内最低賃金の引上げ額や引上げる労働者数匂い時手助成上限額が変動します。
しかし、引上げには以下のようなルールがあることを覚えておかなければいけません。

・すべての同業者の賃金を新しい事業場内最低賃金以上まで引き上げる
・賃金を引き上げる労働者数に応じて助成上限額が変動する
・事業場内最低賃金の者以外でも、申請コースの額以上賃金を引上げた場合は引上げ人数にカウントされる
・引上げる労働者数10人以上の助成上限額は「特例事業者」が対象

助成率

業務改善助成金における助成率は、申請前時点の事業場内最低賃金によって変動します。
業務改善助成金における助成率は以下の通りです。

・900円未満:9/10
・900円以上950円未満:4/5(9/10)
・950円以上:3/4(4/5)

※()内の助成率は、生産性要件を満たした場合に適用されます。

助成対象経費

業務改善助成金の助成対象経費は「生産性向上・労働能率の増進に資する設備投資等」です。
飲食業ではPOSレジシステムの導入、製造業ではフォークリフトなど、業種ごとにさまざまな設備投資が考えられます。
助成対象経費に関しては、以下を参考にしてみてください。

・POSレジシステムの導入による在庫管理の短縮
・リフト付き特殊車両の導入による送迎時間の短縮
・専門家によるアドバイスで顧客回転率向上
・店舗改装による配膳時間の短縮

また、物価高騰要件等に該当する特例事業者は、上記に加えて以下の経費も助成対象となります。

・定員7人以上または車両本体価格200万円以下の乗用自動車
・貨物自動車
・パソコン・スマートフォン・タブレット等の端末と周辺機器の導入

令和6年3月31日申請分までは生産性向上等に資する設備投資等に加え、それらの取組みを行うために関連する費用(広告宣伝費など)も助成対象となっていましたが、令和6年4月1日以降の申請分では助成対象外となっていますので注意が必要です。
助成対象外の経費に関しては助成金が支給されないので、事前に助成対象となる経費かどうか確認するようにしましょう。

業務改善助成金の受給までの流れ

ここからは、業務改善助成金の申請から受給までの流れについて紹介します。
申請に必要な交付申請書や各種フォーマットは、厚生労働省の公式HPからダウンロードしてください。

1.交付申請書・事業実施計画書の提出

まず、申請者は厚生労働省の公式HPから交付申請書をダウンロードし、事業実施計画書とあわせて労働局に提出します。
その後労働局が交付申請書・事業実施計画書を審査し、交付の可否を決定します。
申請から交付決定までは1ヵ月ほどかかるので、できるだけ早く申請手続きを行うようにしましょう。

2.申請に内容に基づいた計画を実施

労働局から交付決定通知を受けたら、計画内容に基づき生産性向上に資する設備投資と事業場内最低賃金の引上げを行ってください。
ここで注意したいのが計画を実施するタイミングです。
事業場内最低賃金の引上げは申請後から可能ですが、設備投資等は交付決定後に行う必要があります。
交付決定前に行った設備投資に関しては助成対象となりませんので、注意が必要です。
また、交付決定通知を受けた後に計画を変更・中止する場合や、事業完了に遅れが見込まれる場合は、その都度労働局へ申請書を提出し、審査を受ける必要があります。
変更等の事実を労働局に知らせなかった場合、助成金を受給することができなくなるので注意が必要です。

3.事業実績報告書・支給申請書の提出

経費等の支払いも含む事業計画が完了したら、次は事業実績報告書・支給申請書を労働局に提出します。
提出期限は、事業計画完了日から起算して1月を経過する日もしくは翌年度4月10日のいずれか早い日までです。

4.事業実績報告書・支給申請書の審査

事業実績報告書・支給申請書の提出が完了したら、労働局による審査が実施されます。
申請から支給・支給額の決定通知までは、原則20日以内となっています。

業務改善助成金の受給後の流れ

実は業務改善助成金は、助成金を受け取って終わりではありません。
労働局側が「助成金の支給が事業にどのような影響を与えたか」を確認するために、助成金の受給から一定期間後に「状況報告」を作成し、労働局へ提出する必要があります。
提出期限は以下のいずれか遅い日から起算して1ヵ月以内です。

・賃金額を引上げてから支払い請求手続きを行った日の前日
・賃金額を引上げてから6ヵ月を経過した日

業務改善助成金を活用する際の注意点

業務改善助成金を活用する際の注意点は以下の通りです。

業務改善助成金の利用経験がある事業者も対象になる

一般的に助成金・補助金は一度きりの利用とされています。
つまり、同じ制度を2回以上利用できないということです。
しかし、業務改善助成金は過去に利用経験がある事業者でも再度活用することができます。
過去の利用を理由に活用を諦める必要はないので、過去に業務改善助成金を活用したことがある事業者でも、再度申請を検討してみてください。

事業計画を変更する場合は事前に連絡が必要

申請時に提出した「事業実施計画書」の内容に変更がある場合は、事前に労働局に「事業計画変更申請書」を提出しなければいけません。
事業計画変更申請書を提出せずに、当初の予定とは異なる事業を実施してしまうと、助成金を受給できなくなります。
業務改善助成金を活用して、低コストで生産性に資する設備投資等を行うためにも、事業実施計画書の内容に変更がある場合は、事前に労働局に連絡するようにしましょう。

交付決定通知前の設備投資にかかった経費は助成対象外

業務改善助成金で助成対象となる経費は、交付決定通知後に導入した設備投資にかかった経費です。
交付決定通知前の設備投資にかかった経費は助成対象外となるので、注意が必要です。
交付申請から交付決定までは一般的に1ヵ月ほどの期間を要しますので、気長に待つようにしましょう。

業務改善助成金の活用事例

本章では、業種ごとの活用事例をご紹介します。

運送業

運送業では、フォークリフトや特殊用途自動車、顧客管理システムや配車システムの導入に業務改善助成金を活用するケースが多いです。
ある運送業者Aは、アナログ式のタコグラフを使用していたことにより、ドライバーが運行終了後に20分ほどかけて運行日報を手書きしなければいけないという課題を抱えていました。
この課題を解決するために、業務改善助成金を活用してデジタルタコグラフを導入。
結果、運行日報を手書きする必要がなくなり、ドライバーの負担を軽減することに成功しました。

建設業

建設業では、建設機械や測量機器、CAD、工事管理関連のソフトウェア等の導入に業務改善助成金を活用するケースが多いです。
ある建設業者Bは、業務用車両をリースで借りていたため、リースするための費用やリース先に借りに行く手間など、時間的・金銭的なコストの発生に頭を抱えていました。
この課題を解決するために、業務改善助成金を活用して、軽貨物自動車を購入。
結果、リースで借りる費用や借りに行く手間がなくなり、コスト削減・生産性の向上を実現しました。

飲食業

飲食業では、調理器具類や食器洗浄機、POSレジシステム等の導入に業務改善助成金を活用するケースが多いです。
ある飲食業者Cは、会計のお客さん対応や、閉店後の締め作業にかかる手間を何とか軽減したいと考えていました。
この課題を解決するために、業務改善助成金を活用して、POSレジシステムを導入。
結果、清算業務を自動化することができ、人件費の削減、顧客の回転率上昇を実現しました。

医療・福祉業

医療・福祉業では、福祉車両や施術・医療ベット、既存設備の増設等を行う際に、業務改善助成金を活用するケースが多いです。
ある福祉業者Dは、利用者を送迎する際のスタッフの身体的負担に課題を抱えていました。
車いす利用者などは自身の足で車から自宅まで歩くことが難しいため、スタッフが人力で家まで運ばなくてはならないという現状があったのです。
この課題を解決するために、業務改善助成金を活用して、リフト付き福祉車両を導入。
結果、車いす利用者の送迎時間削減、スタッフの身体的負担軽減を実現しました。

【業務改善助成金】制度概要と受給までの流れ、活用事例について解説のまとめ

今回は、業務改善助成金の制度概要と受給までの流れ、活用事例について解説させていただきました。
業務改善助成金は、生産性向上を目的とする設備投資等を行うとともに、会社内の最低賃金を一定額以上引上げた場合に、活用できる制度です。
助成金の支給によりコストを抑えながら生産性向上を目的とした設備投資を行うことができます。
また、業務改善助成金を活用するには「事業場内最低賃金の引上げ」が必要であるため、必然的に労働者の離職率を低下させる効果にも期待できます。
業務改善助成金の活用を検討されている方は、できる限り早く申請手続きを開始するようにしましょう。