ファクタリングに関する判例にはどんなものがある?違法とされるケースとは
目次
ファクタリングは、ファクタリング会社に手数料を支払い、債権を譲渡して支払期日より早く現金化するサービスです。ファクタリングは金融機関からの融資と比較して資金調達までのスピードが速い方法として近年注目を集めています。ファクタリングは、法の上では「債権の売買(譲渡)契約」にあたり、合法です。
「貸金業法」や「出資法」などの法律によるさまざまな規制があり、開業するためにも登録・認可が必要な金融業と比べて、ファクタリングには直接規制する法律がありません。そのため手数料などの上限も決まりはなく、ファクタリング会社の裁量で決められます。これにより、手数料などをめぐって利用会社とファクタリング会社との間で裁判になった事例もあり、さまざまな判例が残っています。また、規制がないことを悪用した一部業者による違法な取引の判例がクローズアップされたことで、ファクタリング自体の違法性が疑われることにもなりました。
本記事では、ファクタリングが合法であることを解説し、ファクタリングが争点になった判例を例に挙げ、どのような内容で争いとなったのかについてご紹介します。
ファクタリングは合法
ファクタリングは売掛債権を譲渡(売買)する取引であり、まったく違法性はありません。その根拠について解説します。
ファクタリングの合法性
ファクタリングは、民法に定められている「売掛債権は譲渡できる」という一文からもわかる通り、合法的な取引です。利用者とファクタリング会社の間で結ばれるのは「債権譲渡契約」の一つであり、何ら違法な点は見つかりません。
また、契約書上「権利譲渡禁止」となっている売掛債権でも売掛先の許可なく譲渡できるように法律が変更されるなど、債権譲渡(ファクタリング)による資金調達を国が推進しているのです。
融資とは異なり「利息制限法」は適用されない
ファクタリングは「債権譲渡」です。つまり、お金の貸し借りではないため、手数料の発生はあっても利息の発生はありません。よって高すぎる利息を取り締まるための法律である「利息制限法」が適用されることはないのです。
そのため、基本的にはファクタリングの手数料が高額であっても違法ではなく、ファクタリング会社は自由に手数料を設定できます。
ファクタリングがなぜ裁判になるのか
では、なぜ合法であるはずのファクタリングが裁判で争われる事例になるのでしょうか。
過去のある判例では、ファクタリング契約であったにもかかわらず中身は「貸付金」とみなされたことによって、ファクタリング会社側が敗訴となりました。また別の判例では、手数料が高額であり利息制限法に反している、として利用者が訴えを起こしましたが、ファクタリング会社の勝訴となった例もあります。
過去の判例では、原告は「手数料の高さ」や「ファクタリング会社が違法とみなされるような取引を行っていた」といったことを理由に、訴訟を起こしています。
判例とは?
ここで、ファクタリングに関する判例を見る前に「判例」とは何か押さえておきましょう。判例とは、裁判における、先例となる過去の判決のことです。裁判では、過去の判決が参考にされることもあります。「判例」は本来、最高裁判所の出した判決を指しますが、広義ではそれ以外の裁判所が出した判決(裁判例)についても判例という言葉が使われます。
ファクタリングの判例
ここからは、ファクタリングが絡んだ裁判の判例を取り上げ、どのような経緯があったのか、争点はどこにあったのかなどについて解説します。
判例① 給料ファクタリングをめぐる最高裁判決
給料ファクタリングは「給料をもらう権利」を債権とみなし、実際の金額よりも安く売り渡して、給料日よりも早くお金を受け取れるファクタリングの一種です。
2020年に金融庁は給料ファクタリングは実質的に貸金業にあたるとして、給料ファクタリングを提供する場合は登録が必要であると発表しました。そのため、現在では金融業の許可を受けずに給料ファクタリングを行うのは違法であるという見解が定着しています。また、最高裁判所および東京地裁も給料ファクタリングが貸金業にあたり、提供には認可が必要で、手数料は利息制限法によって制限されるものであるという判決を出しました。
給料ファクタリング自体は違法なのではなく、貸金業者として登録を行い利息制限法を遵守した利率で行う場合は合法です。しかし、貸金業者として登録するファクタリング会社はほぼ存在しません。
また、給料ファクタリングが事業者向けと大きく異なるのは、給料は生活の基本となるものであり、労働基準法によって直接労働者へ支払わねばならないなど守られているという点です。さらに、給料は流動性がある債権ではないことから、そもそもファクタリングには不向きであるといえます。
判例② 償還請求権をめぐる裁判
ファクタリング会社は、債権の買い取りと同時に「売掛金の未回収リスク」を背負うことになります。もし売掛先が倒産して売掛金が回収できない事態になっても、利用者にその請求が及ぶことはありません(償還請求権がない=ノンリコース契約)。
数は多くありませんが、中には「償還請求権」があるファクタリング(ウィズリコース契約)を提供する会社があります。償還請求権とは、売掛金の回収ができなくなった場合、ファクタリング会社が利用者に請求できる権利です。過去の判例では、ウィズリコースの場合は融資と同等とみなすいう判決が出たものがあります。この例にならうと、ウィズリコース契約をする業者は、貸金業などの認可を受け、利息制限法を守った金利の範囲内の手数料を設定して行うことが必要です。
判例③ 手数料をめぐる裁判
この判例では、原告は過去に何度か3社のファクタリング会社を利用、ファクタリングを繰り返していましたが、資金繰りが悪化し倒産しました。その後原告は「ファクタリング取引は公序良俗違反」として訴えます。原告の主張は、3社とのファクタリング取引は融資である、とした上で、手数料を利率に換算すると利息制限法で規制されている利率を超過しているため、公序良俗に反するというものでした。
原告の主張は以下の通りです。
・手数料を利息制限法にあてはめると年率300%以上となり、これは利息制限法に違反した暴利である
・貸金業法違反、出資法違反のため、契約自体が無効
・不法行為であるため、賠償金の支払いを求める
結果、裁判所はファクタリングは融資とはみなされず、「債権譲渡契約」であると判断し、原告の訴えは認められませんでした。その理由は以下の通りです。
・売掛金の未回収リスクをファクタリング会社が背負っていること
・償還請求権がない契約であったこと
・ファクタリングは公序良俗に違反していない
・手数料も暴利とはいえない
この判例では、原告はファクタリングの利用を重ねて経営が行き詰まり、賠償金を請求しましたが認められませんでした。どの取引も償還請求権なしの契約で、未回収リスクをファクタリング会社が背負っていました。こうした場合、基本的には債権譲渡契約と認められます。
原告は給料ファクタリングが貸金契約であると認められるなら、事業者間で行われるファクタリングも貸金契約であると主張しました。しかし裁判所は、事業者間と給料ファクタリングは異なるとして原告の訴えを退けたのです。
判例④ 破産管財人がファクタリング会社を訴える
ファクタリングは資金繰りの改善に有効な手段ですが、利用しても改善せず、破産する企業も少なくありません。裁判所は破産手続の開始が決定すると「破産管財人」を選定します。この判例は、利用者の会社が破産した時に、破産管財人がファクタリング会社に対し金銭の返還を求めて訴訟を起こしたケースです。
この判例では破産管財人がファクタリング会社の2社に対し、ファクタリングは実質金銭の貸借と同じであり「債権譲渡契約」は無効であると主張したのです。判決はファクタリング会社側の全面勝訴となり、破産管財人のファクタリングは金銭の貸借であるという主張は認められず、債権譲渡契約であると認定されることとなりました。
裁判になる場合、ファクタリングは金銭の貸借と実質同じであり、貸金業法や利息制限法を逸脱した取引が行われているため違法、不当である、と原告側が主張することが多くなっています。しかし、これまで多くの判例で「ファクタリング契約は債権譲渡である」という判決が下されています。
判例⑤ 無効な債権でファクタリングを利用
ファクタリング利用の際、実際には存在しない虚偽の請求書などを使ってファクタリング会社から代金をだまし取ろうとした事例の判例です。この判例では、虚偽の債権でだまそうとした企業と取引先がファクタリング会社に訴えられました。
原告はファクタリング会社、被告はだまそうとした企業とその取引先です。資金繰りが苦しくなった被告の会社(利用者)は、架空の支払予定通知書などを作成し、ファクタリングを申し込みました。その時に利用者は取引先の代表者に実印を貸してほしいと頼み、押印や記名を行い偽造します。ファクタリング会社は信用し契約を結びお金を振り込みましたが、当然架空の債権のため代金の回収はできず、ファクタリング会社はだまされたとして訴訟を起こしたのです。
被告である利用者はだました事実を認めましたが、取引先はかかわっていないと否定し、責任はないと主張し、裁判を起こされたことで損害を被ったとして原告を訴えました。ファクタリング会社は取引先も共謀したとして、連帯で被害額を払うべきであると主張しましたが、裁判所はファクタリング会社の利用者への請求は認めたものの、それ以外の請求は棄却しました。
この判例では、実際には存在しない書類を作成して代金をだまし取った企業および取引先が訴えられています。違法行為があると、自社だけではなく場合によっては取引先にも影響があるのです。この判例では取引先への請求は認められませんでしたが、認められる可能性もあります。
当然ながら、架空の請求書や契約書などを作ってファクタリングを利用するというのは、あってはならないことです。嘘の書類でファクタリングをすれば、詐欺罪に問われる可能性があります。
判例⑥ 売掛債権の金額の一部しか支払われなかったケース
ファクタリングの手続きが行われたにもかかわらず、実質的には融資と同等とされた判例です。この判例では、売掛債権の一部のみ買い取りをするファクタリング契約は、融資であると判決が出ました。
原則として、ファクタリング会社は利用者から手数料を取る代わりに売掛債権の全額を買い取って一括で支払うと同時に、売掛金を回収できなくなるリスクも背負います。過去の判例のうち、ファクタリング会社が敗訴した例ではこれらの原則が守られていませんでした。
この判例のファクタリング会社は、手数料は高額であったのにリスクを全面的に負っていませんでした。ファクタリング会社は売掛金の一部のみを買い取り、売掛金の額面金額とは違う金額で取引を行っていました。支払期日になり売掛金の全額が回収された時点で全額買い取る契約にしていたのです。
この判例では裁判所は、売掛金を担保とした融資とみなす判決を出しました。融資とみなされたことにより、ファクタリング会社は利息制限法で定められた上限までの手数料しか取れないことになります。利息制限法の上限を超えた部分は、返金されることになりました。
ファクタリングの手数料が利率に換算すると、利息制限法で定められた上限の利率を超えていても問題がないのは、ファクタリング会社が売掛金の未回収リスクを背負っていることが理由です。
この判例では、ファクタリング会社は、リスクを負わないのに高額な手数料だけを請求するのは認められないことを示したものでした。ファクタリング会社は、ファクタリングをサービスとして提供する場合は「手数料を取る代わりに売掛債権を額面通り買い取り、未回収リスクを負うこと」を明確にした判例です。
ファクタリングに関する判例にはどんなものがある?違法とされるケースとはのまとめ
ファクタリングは「債権譲渡契約」となり、違法性はありません。これは、多くの判例でも認められていることです。ただし、ファクタリング会社が原則として「手数料を取る代わりに、売掛債権の額面全額を一括で買い取り、売掛金が回収できなくなるリスクを背負う」ことが可能な場合に限り認められます。
仮に、ファクタリングとしての契約を結んでいても、実質的には貸金とみなされるような取引が行われた場合はファクタリング会社の敗訴となり、過払い金として利用者に返金するといった判例も残っています。