ファクタリングを行うと法人税は増えるのか、それとも減るのか?
企業にとって資金繰りと税金は頭の痛い問題です。ファクタリングは資金繰りの改善に利用されます。ファクタリングにより売掛債権を現金に換えることが、しかも迅速にできるためです。しかし、ファクタリングで法人税が増えてしまうのであればあまり使いたくないですよね。逆にファクタリングを行うことで法人税が安くなるのだとすればよりファクタリングが使いやすくなります。
企業の支払う税金と法人税
企業は様々な税金を支払います。個人と同じようにものを買ったり売ったりすれば消費税がかかります。契約書等の証書を作成すれば印紙税がかかり、外国に商品を売れば関税がかかります。
このような個人であっても支払う税金を企業は負担しますが、企業だけが負担する税金もあります。その一つは事業税です。事業税は地域によって税率は異なるものの事業を行っている企業であれば避けられない税金です。そしてもう一つ、個人にはないものの企業であれば支払う税金、それが法人税です。法人税とはどのような税金なのかをまずは見ていきましょう。
法人税の特徴その1 法人税を支払うのは法人だけ
法人税にはいくつか特徴がありますが、何よりも最初に抑えておくべきポイントは法人税は法人(多くの場合は会社)にだけ課される税金であることです。法人とは法人格を持つ団体を意味しています。
法人格を持つということは、法律上、法人が個別の権利や義務を有する「独立した存在」として扱われることを意味します。この法人が事業活動を通じて得た利益に対して、法人税が課税されます。
一方で、個人事業主や法人格を持たない組合などの事業体は、法人税の対象ではありません。言い換えると、法人以外であれば事業を行っていても法人税はかかりません。フリーランス、個人事業主は法人ではないため、法人税がかからないということです。
法人税の特徴その2 法人税を支払っていれば所得税は課されない
次に企業は法人税を支払いますが、私たちにとって最もなじみ深い所得税を支払う必要がありません。実は法人税は個人にとっての所得税の代わりにある、とも言える税金なのです。
所得税について細かく知らない人であっても、所得税が所得(給料等)に応じて決まることは知っているでしょう。ざっくりと言えば所得が多くなればなるほど、支払う税金は高くなります。
法人税の特徴その3 法人税は収益にかかる
所得税の代わりである法人税も、所得が多くなればなるほど税金が高くなります。
個人にとっての所得は、法人にとっては収益と言い換えることができます。法人税ではこの収益を課税所得と呼びます。では法人税がかかる課税所得とは何でしょうか。これもおおざっぱに言えば、その年に受取ったものから、支払ったものを差し引いた残りです。
法人税では受け取ったものを益金、支払ったものを損金と言います。益金から損金を差し引いた残りが課税所得です。この課税所得に税率をかけた金額を法人税として支払う必要があります。
法人税の特徴その4 会計上の利益と法人税の課税所得は一致しない
企業が受け取ったもの、支払ったものの差額は会計上の利益として認識されます。そのため課税所得は会計上の利益のことか、と思われるかもしれません。この理解はおおむね間違っていません。しかし、会計上は費用とできる支出でも、法人税の計算に当たっては費用(損金)とはできないものがあります。よく知られているのは交際費です。交際費は会計上は支払った全額が費用になりますが、法人税の課税所得の計算の際は全額損金になりません(損金算入できない、あるいは損金不算入という言い方をされます)。他にもいくつかの費用は法人税では損金となりません。
逆に、会計上は利益になるものの中に益金に含まれないものもあります。代表例としては企業が持っている有価証券(株式など)から受けとる配当金があります。このような収益は、課税所得を計算する際に益金から差し引くことになります(結果として課税所得が少なくなります)。
ファクタリングが企業の法人税に与える影響
法人税の影響を知るために理解しておきたいファクタリングの基礎
法人税について理解したところで、ファクタイングは法人税にどのような影響を与えるのかをみていきます。まずはファクタリングとはどのような取引なのかを確認しておきましょう。
1.ファクタリングとは
ファクタリングとは、企業が持っている売掛債権(取引先からの未収入金)を、ファクタリング会社に売却して資金を得る金融サービスです。売掛金は入金まで時間がかかりますが、ファクタリングを用いることで企業は売掛金の支払い期日を待たずに資金を得ることができます。その結果、資金繰りを円滑にすることができます。
2.ファクタリングの種類
ファクタリングには、いくつか種類があります。
大きく分けるとファクタリングには二者間ファクタリングと三者間ファクタリングがあります。二者間ファクタリングとは、売掛債権を有する企業(債権者)とファクタリング会社の二者だけでファクタリングを行うことです。これに対して三者間ファクタリングとは債権者とファクタリング会社に加えて、売掛債権を支払う会社(売掛債務を負う会社、債務者)を含めた三者でファクタリングを行うことです。
3.二者間ファクタリング
二者間ファクタリングでは債務者は債権者に対して支払いを行い、債権者は受け取ったお金をファクタリング会社に支払います。万が一、債務者がその売掛債務の支払いをしなかった場合であっても、債権者はファクタリング会社への支払いを免れることはできません。そのため二者間ファクタリングでは債務者の支払いを債権者が保証する関係になります。二者間ファクタリングはこのため、保証型と呼ばれることがあります。
4.三者間ファクタリング
三者間ファクタリングでは、債権者は、その売掛債権をファクタリング会社に売却します。そのため三者間ファクタリングは買取型と呼ばれることがあります。ファクタリング会社は売掛債権を直接債務者から支払ってもらうことになります。そのため、債権が譲り渡された事実を債務者に伝える必要があります。債権者は債権を売却してしまうので、債務者が支払うかどうかに関与しないことになりますが、債権者が債務者の支払いを保証するファクタリングもあります。
二者間ファクタリングの法人税への影響
二者間ファクタリングでは通常、ファクタリングに費用がかかり、その結果損失が発生することがあります。ファクタリングによる利益が生じることはありません。
1.二者間ファクタリングの損益
二者間ファクタリングでは、ファクタリングを希望する会社からファクタリング会社に対して、手数料や保証料という名目でお金が支払われます。この支払はファクタリングを行う会社の費用となります。その費用の分だけ利益が少なくなるということです。
2.二者間ファクタリングの法人税への影響
二者間ファクタリングを行う際の、ファクタリング会社への手数料や保証料の支払いは会計上の費用となるだけではなく、法人税の計算においても損金となります。そのため、手数料や保証料を支払った分だけ法人税の課税所得が少なくなり、結果として、支払う法人税も少なくなります。
三者間ファクタリングの法人税への影響
三者間ファクタリングでも通常はファクタリングを行うと費用を支払う分だけ損失が発生します。また債権の譲渡損が発生することがあります。しかし、特殊な事例ではありますが、二者間ファクタリングとは異なり、三者間ファクタリングでは、ファクタリングにより利益が生じることがあります。
1.三者間ファクタリングの損益
三者間ファクタリングでは、ファクタリングを希望する会社からファクタリング会社に対して、債権が譲渡されます。この債権の譲渡が債権の金額以上で行われる場合には、譲渡益が生じます。
債権の金額とは、その債権が取引の結果、発生したものである場合には、受け取る金額を言います。100万円支払ってもらえる債権であれば100万円ということです。第三者から債権を譲り受けた場合には、債権の金額が債権から受取る金額と同じではないこともあります。100万円支払ってもらえる債権を70万円で取得した場合には、債権の金額は70万円になります。この債権について100万円のファクタリングを行うと、30万円の譲渡益が発生することになります。
また債権の金額以下で行われる場合には譲渡損が発生します。100万円の債権を70万円で譲渡すると30万円の譲渡損が発生します。
これに加えて、三者間ファクタリングでも手数料や保証料の支払いが必要となる場合があります。この場合、手数料や保証料は費用となりますので、その費用の分だけ利益が少なくなります。
2.三者間ファクタリングの法人税への影響
三者間ファクタリングで手数料や保証料を支払った場合、会計上の費用となるだけではなく法人税の計算においても損金となります。そのため、手数料や保証料を支払った分だけ課税所得が少なくなり、結果として、支払う法人税も少なくなります。法人税を考えるに当たっては二者間ファクタリングと同じように考えてよいということです。
また債権の譲渡損についても、会計上の費用となるだけではなく法人税においても損金となります。そのため譲渡損の金額だけ課税所得が少なくなり、結果として、支払う法人税も少なくなります。
これに対して、二者間ファクタリングでは生じなかった債権の譲渡益が発生した場合、その譲渡益は法人税の計算上も益金に参入されます。そのため譲渡益の金額だけ法人税の課税所得が多くなり、結果として支払う法人税が多くなります。
ファクタリングは法人税の節税手段になるのか
以上説明してきたように、ファクタリングを利用すると、二者間ファクタリングであっても、三者間ファクタリングであっても通常は損失が発生し、その損失を損金とできるため、結果として法人税の支払いは減ることになります。
ではファクタリングは法人税の節税手段となるのでしょうか。先に答えをお伝えすると節税にはなりません。
法人税の節税とは何か
法人税の節税とは、企業が合法的な手段を用いて、支払うべき法人税の額を減少させることを指します。節税は税法に定められた控除や特例、減価償却の方法などを活用し、課税所得を減らすことで実現されます。例えば、研究開発費の税額控除や、一定の条件を満たした設備投資に対する特別減税などが挙げられます。また、損益通算や繰越欠損金を利用することで、過去の損失を将来の所得と相殺し、税負担を軽減することも節税の一環です。節税は税法に則った適切な手続きで、違法な税逃れとは異なります。節税は、企業の資金効率を高め、持続的な成長を支えるための重要な戦略です。
なぜファクタリングは節税手段にならないのか
ファクタリングは企業が行う合法的な手段です。また、ファクタリングを行うことで支払うべき法人税の額を減少させるケースがほとんどです。それにもかかわらず、ファクタリングは法人税の節税の手段にはなりません。
企業は収益の一部を法人税として支払います。企業が法人税を節税して減らす目的は、企業の収益の一部を法人税として支払うのではなく、自分の手元に残しておくことにあります。
ファクタリングは法人税を減らすことにつながるものの、ファクタリングを行うことで企業の収益自体が減少します。法人税はこの収益(課税所得)に対して一定割合で課されるもののため、収益の減少額は法人税の減少額よりも大きくなります。つまり収益を減らすことで法人税を減らすことは、手元に残る収益が少なくなることを意味しています。
これがファクタリングを行っても節税にはならないということの意味するところです。
ファクタリングと法人税との関係をしっかりと理解しよう
ファクタリングは法人税に影響を与えます。特殊なケースでは、ファクタリングを実施すると債権の譲渡益が発生し、法人税が増加します。しかしほとんどのケースではファクタリングを実施することで、ファクタリングに付随して支払った費用などの分だけ法人税の支払いは減少します。
法人税の減少は節税とは言えません。なぜならファクタリングを行うことで企業の収益自体が減少するからです。
ファクタリングを利用する際は、収益を減少させてもなおメリットがあるかをよく考えてみましょう。